其の四

ノスタルジア




30歳のある日、実家から「あんた宛に葉書が届いている」 と連絡があったので仕事の帰りに取りに行った。
葉書には汚い字で宛先に中野照久様、そして差出人にも中野照久。
…???
裏を見ると題名があり、「20年後の僕へ」 と書かれていた。
うっすらと記憶が蘇る。10歳の時に学校で、未来の自分へ向けて手紙を出すという何ともまあメルヘンな行事があったのだ。「へえ〜」 と思わず声を漏らし、柄にもなくノスタルジックになる俺は学校の思う壺である。
郷愁にかられ、脳内で井上陽水の「少年時代」 が流れると、続けて書かれている内容に目を通した。

♪な〜つがす〜ぎ〜かぜあ〜ざみ〜♪

「20年後の僕へ」
お前はゴルゴ13となり黒人の女と結婚している!

………。

「…お袋、これ読んだ?」
「読んだ」
「どう思った?」
「その時には既に育て方を間違っていたんだと思った」

………。

帰り道、少年時代を思い出す。
もう井上陽水は流れない。流れるのは小学校5、6年の頃、下校途中に歌っていた作詞作曲のオリジナルソングである。

♪セックスなんて〜わたしの〜興味〜♪

文法すら破綻した歌を少年は踊り付きで歌いながら進む。
その道の向こうに今の俺があるのか――。
大人になってもハッキリと思い出せるこの歌を、夜道を歩きながら口ずさんでみた。
井上陽水よりしっくりくる自分がいた。

刃喰いはジュラルミンの刀を使い、斬るときに思い切り相手にあてるため、ふたりとも身体中に傷がある。
葉書の一件から更に10年の時を経た最近、とある楽屋で着替えていると他の出演者の方から声をかけられた。
「うわ、身体の傷すごいですね。ゴルゴ13みたいですよ」

…10歳の俺、少しだけ当たったぞ。


2015年6月
BGM:一番星ブルース -菅原文太、愛川欽也 - 


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